Sensing & Design Lab.

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
センシング・デザインラボ(神武研究室)

Keio Meet the Future Project(KITE Project) SENSING & DESIGN LAB. SPECIAL SITE 神武研から理解するSDMとその社会活用

Sensing & Design Lab.

Keio Meet the Future Project(KITE Project) SENSING & DESIGN LAB. SPECIAL SITE 神武研から理解するSDMとその社会活用

プロジェクト名称

自分や他者を俯瞰的に捉えるためのデータを活用したスポーツコーチング

Data-Driven Sports Coaching for Understanding Myself and Others from a Bird's Eye View

概要

主にトップアスリートと所属チームを対象に、センシング技術により得られるデータを活用したスポーツコーチングをテーマに複数の研究プロジェクトを推進している。選手の体力や行動に関する様々なデータの収集・分析・可視化を通じて、未来のリスクを予測しながら怪我の予防、建設的なコミュニケーションの誘発、コンディション管理や戦略立案に役立てていく。各競技特性に応じた効果的なデータ活用を目指して、異なる競技チームと連携を図り検証を進めている。

実施地域

慶應義塾大学日吉キャンパス他 練習・試合場フィールド
慶應大学体育会蹴球部(ラグビー部)、野球部、競走部、庭球部(テニス部)

研究背景/目的

テクノロジーの高機能化とコモディティ化を背景に、センシンング技術をスポーツ分野で応用していく動きが加速しています。記憶に新しいところでは、2019年のW杯でベスト8入りを果たしたラグビー日本代表チームが、*GPSデバイスから得られるデータを選手のコンディショニングや試合での戦略分析に活用してチームの強化を図ったことが報じられています。
プロアスリートや学生スポーツのトップクラスチームを中心に、GPSデータの活用が広がりつつあるなか、「収集したスポーツデータをどう役立てていくのか」という論点が重要視されています。
本研究領域においては、収集したスポーツデータを競技特性に応じて効果的に活用し選手育成を図ることを目的として、慶應義塾大学体育会各部や企業と連携して研究、実装を進めています。

研究方法

客観データが、選手一人ひとりのパフォーマンス向上に向けた意識変容・行動変容を促していく

研究は、それぞれのチームや所属選手が抱えている課題を正確に把握することを起点に進めています。監督・コーチと選手が認識していることにずれが生じるケースが多い指導現場において重要なことは、選手が抱いている普段の練習や試合での行動イメージと実際に起きていることのギャップに選手自らが気づくことにあります。

GPSやiPadに加え本分野における企業開発のテクノロジーを駆使しながら取得・蓄積したデータや映像を活用して指導を行うことで、選手は自らの行動を俯瞰的に捉え、具体的な失点要因や敗因に関する納得感を伴った理解が可能となります。試合中のみならず、試合までの日々の過ごし方のデータを読み解き分析していくことも極めて重要です。試合で怪我をする、力を発揮できないという要因には、普段の休息や練習量に問題があることも把握できるようになります。日々の体調や睡眠時間などの気づいていなかった行動パターンが見えることで、良い結果を導く行動パターンを心がけようとする動きが生まれます。
選手の背中に取り付けられたGPSデバイスによる計測データと高精度ビデオカメラによる映像で選手のパフォーマンスを可視化
コンディションマネジメント上に有用なこれらデータは、競技特性に応じて活用方法をデザインしていくこともスポーツコーチングの研究を進めていくうえで重要な観点となります。
同じチームスポーツであってもたとえばラグビー、野球、駅伝それぞれに異なったデータ活用が求められます。選手内での協調が大事であるラグビーにおいては敵より先んじて点を取るためのふるまいを変えていくために、野球においては良い投球をするためのコンディション管理の改善に向けて、駅伝においてはロードに出ている選手の横に付き添っているような感覚で緻密かつリアルタイムにコーチングを行うために、それぞれの対応を進めています。
各チームの課題として把握していなかったことを把握できるようになることで、チーム内での論理的なコミュニケーションも生まれます。「言われたからやらなくてはならない」から「ここを改良することでチームに貢献できる」という選手の意識変容がおき、ひいては練習メニューの具体化や改善に向けての自発的な行動変容へと繋がるのです。

研究成果/展望

ベストな状態で試合に臨めることで個々の成長とチーム実績を導く

データを活用したスポーツコーチングの研究領域においては、怪我の予防を筆頭に様々な成果が見られています。疲労に起因する肉離れなどの怪我の減少や、チーム内での円滑なコミュニケーションを誘発することが明らかになっています。 監督やコーチと選⼿、選手間の対話が活性化することは、未来の選手の姿に対しての具体的なトレーニング立案や個々の内省にも効果的です。また運動、睡眠、食事といった日々の過ごし方に関するコンディショニングマネジメントが進むことは*ピーキングにも役立っています。
「データ」を的確に解釈・分析することで選手育成上の有用な「インフォメーション(情報)」へと置き換え、さらに「情報」を目的に対して意思決定するための「インテリジェンス(知恵)」へと昇華していくことで、必ずしも突出した才能を持つ人材の集まりではないチームメンバー一人ひとりのフィジカル、パフォーマンスを向上させることが本研究の本質といえます。

データ活用により自分や他者を俯瞰的かつ緻密にみる力を養うスポーツコーチングは、体育に苦手意識を持つ小学生への指導など初等教育の現場でも役立てていくことができます。高いデータリテラシーをもつことは、スポーツ以外の場面への応用も期待できます。たとえば、データ駆動型社会へ移行が進む現代において、企業が求める*DX人材としての素養にも繋がっています。

キーワード

GNSS

ピーキング

DX

Global Navigation Satellite Systemの略称であり、人工衛星を使用した測位システムの総称。日本で一般的に知られているGPS(Global Positioning System)はその一つで、アメリカが運用する衛星測位システムだが、他にも日本の「みちびき」、ロシアの「GLONASS(グロナス)」、ヨーロッパの「Galileo(ガリレオ)」など、さまざまな国が120基以上の人工衛星を打ち上げている。
試合で最高のパフォーマンスを発揮するために、練習などでコンディションを調整していくこと。
デジタルトランスフォーメーション。データとデジタル技術を活用し、製品やサービス、ビジネスモデルを競争優位性を高めていく方向に変革していくこと。ビジネスシーンのみならず、行政や教育機関など様々な組織体制や業務上においても、より良い組織文化や業務効率を生むための手段として求めらている。スポーツ分野においてもDXがもたらす新たな可能性について注目が集まっている。

研究関連情報

<連携・協力機関>
同テーマでの研究領域において、複数プロジェクトで実績を重ねています。

連携機関(一部):
大正製薬株式会社
国際航業株式会社 (競争部)
エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社 (庭球部)

<実施期間>
2015年より継続

<関連記事URL>
・教科横断の学びや意欲向上にもつながる、学校教育での「スポーツ×データ」による効能とは
(EdtechZine 2022年2月22日)
https://edtechzine.jp/article/detail/6919

・スポーツの可能性をさらに拡張する「スポーツDX」の未来(Webマガジン『B.』by SONY 2021年11月21日)
https://www.sony.jp/professional/magazine/B/chamber60/

・テクノロジー活用でパフォーマンスを可視化する
GPSデータで何が分かるのか?—「本番で能力を発揮できるスポーツ選手」を育てるデータの力—(TORCH 2021年3月4日)
https://torch-sports.jp/article/what-GPS-data-can-tell-us

・データの蓄積と分析が、試合前の緻密な“ピーキング”を可能に (ONE TAP SPORTS)
https://one-tap.jp/user-voice/keio-baseball

・スポーツの“苦手意識”を、データの力で学ぶ意欲に。慶應大院教授が、小学校の体育で実現したいこと(Huffpost Japan 2019年11月21日)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/pe-class-date_jp_5c77489de4b010e7c563c8dc

・IT活用に託す「箱根駅伝」古豪復活、慶應義塾大学(日経クロステック 2018年12月25日)
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/110200006/121400160/

・AIがシンクロ演技を判定したら 技術点は人より正確(NIKKEI STYLE 2017年6月12日)
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO16079610Y7A500C1000000/