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SDM進学生座談会

徹底的に学んだ「考え方」とタテとヨコのつながりが
社会人になった今でも自分のベースになっている

SDM4期 岩澤 ありあさん
Guest
SDM4期
岩澤 ありあさん
Aria Iwasawa
SDM5期 岩谷 真里奈さん
Guest
SDM5期
岩谷 真里奈さん
Marina Iwatani
SDM10期 与那覇 竜太さん
Guest
SDM10期
与那覇 竜太さん
Ryuta Yonaha
慶應SDMは社会人のみに門戸を開いた大学院ではなく、学部新卒生と社会人が混じり合い、机を並べて学び合うのも大きな特徴です。学部新卒生から見たSDMとはどんな場所だったのか、現在社会人となった3名の方に聞きました。
「あ、ここ合うかもしれないな」と思った
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まずはみなさまの自己紹介からお願いします。
岩澤:
慶應SDM4期修了生の岩澤ありあです。私は慶應義塾大学の理工学部物理学科出身です。電波天文学を専攻していました。
岩谷:
電波天文学とは、どういう学問なのですか?
岩澤:
私たちが住んでいる銀河中心核がどう発達しているのかについて調べる研究でした。
岩谷:
5期修了生の岩谷真里奈です。多摩美術大学の情報デザイン学科で学んでいました。多摩美の情報デザイン学科は、アウトプットの形は何でもいいから、課題に対してデザインで物事を解決していくということを学ぶところです。
与那覇:
面白そうですね。
岩谷:
ただ、何か専門的なデザインの力が身に付くというわけではないんです。少しSDMにも似ていたなと思います。
与那覇:
10期修了生の与那覇竜太です。私は専修大学経営学部経営学科です。スポーツ推薦で大学に入ったので、ほぼレスリングをするために大学に行っていたようなものです。とはいえ「組織」に興味があって起業も楽しそうだなと思い、マーケティングとプログラミングも学びながら、自分でメディアを作ったり、会社を創ろうとかやっていたんですけど、うまくはいきませんでした(笑)
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それではみなさまがSDMに入学して学ぼうと思った理由について伺っていきます。
与那覇:
自分が関わる人や組織を全て成功に導ける人間になりたいと思ったからです。私は大学までで、レスリングの個人戦で14回日本一になったことがあります。しかし、泣けるほど嬉しいなと思ったのは、高3のときに、団体戦で日本一になったとき。そのとき、みんなで勝つ、みんなで喜びを共有するのがこんなに楽しいのかと思ったんです。

それで大学の4年間は団体戦にもすごく力を入れていたんですけれど、4年のときに、年に1回の大学対抗の団体戦で、私が負けてチームが負けるという経験をしました。それをきっかけに自分が関わる人や組織全てを成功に導ける人間になりたいと思っていたところ、システムデザイン・マネジメントという学問の存在を知って、これだ! と入学を希望しました。
岩澤:
私は学部生のときに航空宇宙業界に就職したかったんですけれど、希望が叶いませんでした。それで大学院に進もうと思ったのですが、理工学部の院はもう既に募集を終えていたんです。その時期から入れる院を探したところ、そこがSDMでした。当時はSDMのホームページの一番トップにスペースシャトルの写真が掲載されていたんです。それで「あ、ここ合うかもしれないな」と思いました。
岩谷:
私はもともと広告に携わりたくて美大に入ったのですが、自分が欲しいと思わないものを宣伝する仕事をしたくないと思ったんです。そこで、私自身が世の中に必要だと思うものを企画する仕事がしたいなと考えました。ただ、ちょっとまだ力が足りないかなと、一般の大学に入り直すか大学院に行くか検討したんですけれど、2年で学びを得られる大学院を選びました。
与那覇:
戦略的ですね。
岩谷:
直接のきっかけは、当時「Think the Earthプロジェクト」でインターンをしていて、ちょうどSDMと一緒にイベントをする機会があり、そこで知ったというのが大きいですね。
岩澤:
どこに出会いがあるかわからないですね。
さまざまな分野についての白熱した議論に衝撃
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SDMに入学した後、神武研に入ったきっかけについて伺えますか。
岩谷:
インターンとして関わっていたイベントで、SDMは神武先生が担当だったんです。その後お話をさせていただいて、入学後はそのまま神武研に入りました。
岩澤:
神武先生とファーストコンタクトを取ったあと、研究室の何かの活動を手伝って、居心地が良かったのでそのまま入った感じですね。「よろしく」って先生が握手を求めてこられて、それで入りました。
岩谷:
神武研究室がいいなっていうのは、ご自分の中ではあったんですか?
岩澤:
握手です。握手で手も心もつかまれました。
与那覇:
すごく神武先生っぽいですね! 私は、当時通っていた専修大学のレスリング部の監督だった久木留毅先生が国立科学スポーツセンターのセンター長でもあったのですが、神武先生と共同でプロジェクトを実施されていて、紹介していただいたのがきっかけです。

後日ラボミーティング(研究室のミーティング)を見学しに行ったところ、学部の新卒でSDMに入った学生も、社会人の方も、研究者の方も、宇宙とか、起業とか、教育とか、防災など本当にさまざまな分野について白熱した議論をされていて、本当に衝撃を受けました。

ここで学んだら、違う分野のことでも、同じ「システムデザイン・マネジメント」という共通言語で議論ができるようになる、話ができるようになる。建設的に社会を良くしようという話ができるというのがすごいなと思って。この神武研の人達みたいに物事を考えることができるようになりたいと思いました。
岩谷:
入学前にラボミーティングに参加したんですね。
与那覇:
本当は私はオリンピックで金メダルを取って、大学院に通いながら体育の教員免許を取って、沖縄に帰って教師をやろうと思っていたんですよ。でも、結局オリンピックにも行けないし、このまま教員免許を持って沖縄に帰ってもおもしろくないなと思い、模索していたんです。そんなとき、監督に「ちょっと神武先生に会ってこい」と言われて、これだ! と思いました。
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神武研は入学前に研究室に遊びに来る人がすごく多いですよね。そんな様子をずっと見ていて、私も入学前にラボに行っておけば良かったなと在学中ずっと思っていました。だから、この座談会を読んでいる方にもぜひ、まずはラボミーティングに参加してみてはどうだろうとお伝えしたいですね。
研究で得た知識や経験が今に生きている
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みなさんどういう研究をされたのか教えてください。
岩澤:
システムに対して、新しい技術を導入するときにどういった障壁があり、どういった意思決定を経てそれが実現するのかということを模索する研究でした。
岩谷:
私は、共創(コ・クリエーション)です。共創についてのワークショップなどを研究し、最終的には絵があまり上手に描けない人でも一緒にイメージプロトタイピング(可視化)に参加できるようなツールを作りました。
与那覇:
大学運動部において「チーム一丸」という状態を狙って作るシステムの研究をしました。コーチの指導やキャプテンのリーダーシップではなく、選手間みんなでその状態を作ってパフォーマンスを上げるという方法を模索しました。実際にチームの目標への一体感が高まるというシステムを作りました。
岩澤:
真里奈さんの研究は、その後ワークショップを開くなど、本当に実践で活かされているなという印象があります。
岩谷:
ありがとうございます。今はサービスデザインの仕事をしており、いろんな人たちと一緒に作っていくことが多いのですが、研究で得た知識や経験は今に生きているなと思います。
タテヨコのつながりで困難を克服できた
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研究はスムーズにはいかないですよね。様々な困難があったと思いますが、こういうふうに克服してきたということをお伺いできますか。
岩谷:
私は美大出身だったので「論文」を書くこと自体が初めてだったんです。先輩方の論文を見ると、タイトルも重いし、こんな堅い文章書いたことないしと不安に思っていました。実は「論文を全部絵で描いてもいいですか?」と神武先生に言ったこともあるんです。助教の方々や先輩方に指導していただいて、論理的に考えることができるようになりました。大学院に行って良かったことの1つだと思っています。
岩澤:
論文ってやっぱり文章が堅いことが多いですよね。私は研究論文をいかに人に読んでもらうかがすごく大切だと思っています。真里奈さんがおっしゃった、絵を使って書くというような形も未来にあっていいのかなと思いました。
与那覇:
論文を絵で描くってどういうことですか?
岩谷:
もっとわかりやすい言葉を使って、イラストで描けたらいいんじゃないかなと思いました。ビジネスモデルなども、どんな登場人物がいて、その人たちが何をしている、というのを絵で描けるんじゃないかなと思っていました。どっちもあるといいですよね。
岩澤:
私は学部生の時に理工学部だったので、研究テーマはだいたい教授から与えられるんですよ。SDMに入って、研究テーマを設定してきちんと研究を行うためには、人と物とお金が必要だということに気付きました。修士では自分が到達したいレベルの研究には達成しなかったと思っているのですが、その学びのおかげで、何か自分で企画して取り組もうと思うときは、周りに協力してくださる方がいるのか、物品が揃っているのか、それを実現する資金があるのかということを考えるようになりました。
与那覇:
私はそもそも研究って何? というのがわからなくて、修士2年になったタイミングで、週に1回、お昼休みに神武先生にアポを取って、ぶつかり稽古をしに行っていました。その後は研究室の先生方や先輩方にすごく助けてもらいました。めちゃくちゃいろんな人にアドバイスをもらったという感じです。
岩谷:
SDMは縦のつながりがすごく強いですよね。先輩、後輩とのつながりがすごくあるので、それが大きいですよね。
企業とのプロジェクトでビジネスを学ぶ
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SDMに通ったり、神武研にいたことでのうれしさや喜びはどこにありましたか?
岩谷:
本当にユニークな人が多かったところですね。新卒で入ったんですけれど、社会人の方々とあんなにたくさん話せる機会はそれまでなかったので、すごく学びになりました。上場企業の社長さんとかも同級生にいて、本当に友達みたいな感覚で話していましたね。
岩澤:
無駄が認められている環境ですね。社会で働き始めると、スケジュールや時間制限がある中でやっていくわけですよね。SDMでの研究は2年間という時間制限はありましたが、その中でテーマを何度も変えたり、寄り道をしながら考える時間が与えられていたのが喜びだったと、今振り返ると思います。
与那覇:
いいですね。いろいろあるんですけど、ビジネスに触れる機会や作る機会があったのが良かったですね。実際に沖縄の伝統をカジュアルにというコンセプトを作って、ものづくりができる「エッジ」という部屋でTシャツを作って販売していました。あと企業との共同プロジェクトに参加したり。物事を成功させるアプローチを学びつつ、ビジネスも実現できたのが良かったですね。
岩谷:
企業と一緒にプロジェクトをする機会が本当に多い大学院ですよね。特に神武研はプロジェクトの数がすごく多い研究室なので、新卒学生としてはありがたかったです。
SDM全部が自分の考え方のベースになっている
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修了後の今、どういうことをされているかということと、その中でSDMでの学びがどう活かされてるかについて教えてください。
岩澤:
私は修了後、電機メーカーに勤めて、そのとき衛星開発に携わっていました。そのとき、ものづくりだけではなくて、衛星を使ったサービスがどう創出されているのかということに興味を持って、会社を退職してまた研究室に戻ってきたんです。それを経て、今はベンチャー企業の衛星開発メーカーに勤めています。

SDMの学びがどう活きているかというと、エンジニアの人と話す共通言語があるのが大きいですね。そもそもシステムズエンジニアリングって、人類を月に送るためのアポロ計画のときに誕生した考え方なんですよね。
岩谷:
私はもともと企画の仕事がしたいと思っていたので、念願叶って、新卒で玩具メーカーに入り企画職をしていたんですけれど、もう少し社会課題を解決することを本格的にやっていきたいと思い、一度退職して研究室に戻りました。今もそれを傍らで続けながら、主にベンチャー企業でサービスデザインの仕事をしています。SDMで企業と一緒に課題を解決する手法を学ぶ機会がたくさんありましたが、今はそれを社内で活用しています。
与那覇:
組織開発コンサルティングの会社に入り、最近ですとパーパスの策定、マネジメントの変革、新規事業のアイデア創出などをサポートしています。それから、自分自身の修士研究が「チーム一丸」を狙って作るということだったんですけど、企業のビジョンやパーパスへのリーチの度合いをどう高めていくかということをベースに、新規事業を構築しようとしているところです。SDM全部が自分の考え方のベースになっていますね。
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これから卒業する学部生で進路を考えようという人がSDMに進学することで、修士であれば2年間を費やして得られるものがあるでしょうか。
岩谷:
あると思いますし、先ほどありあさんがおっしゃっていた通り、就職することだけがすべてじゃないと思うんです。就職に有利だから大学院に行くんじゃない。悩んだり、自分の自由に考えることのできる時間って、本当に有意義だと思うのでメリットはたくさんあると思います。
与那覇:
先輩方を見ても、同級生でも、みんな就職というゴールじゃなくて、生き方を模索して、実現している人が多いですよね。なんとなく就職するよりも、こうやったら人生が面白くなるんだなっていうところがすごくわかると思います。その手段が就職だったら就職でいいと思うし、起業したいんだったら、そういう人たちもたくさんいるのでやり方もわかりますし。
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SDMは、同級生や先輩後輩とのつながりとか、研究室のつながりが、修了した後も続きやすいというところもありますよね。
岩谷:
そうですね。
与那覇:
そうなんですよ。まさに、僕も起業するときにすぐ岩谷さんに相談しました。本当に多様な専門性を持った人たちが集まっているので、キャリアも含め、人生全般をどうやって実現するのかというとき、困ったらすぐに専門家に聞けるネットワークができるのも大きいですよね。
岩澤:
修了後もSDMのつながりで一緒にご飯を食べに行ったりするのが、本当に楽しいですね。
与那覇:
楽しいですよね。
岩澤:
成功したときも、失敗したときも周りに仲間がいるって、すごく心強いなと思います。
岩谷:
本当にそう思います。在学中も毎日のようにみんなで議論しながらご飯を食べたり飲みに行ったりしてたじゃないですか。その2年がすごく濃かったなと思いますし、濃かったからこそ今でもつながりが続いているんだろうなと思います。
取材・構成 池田美樹(SDM10期)2021年11月20日に開催