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特別インタビュー

SDMの学びであなたの「OS」が書き換わる

SDM11期/谷口智彦研 田中 慶子さん
Guest
SDM11期/谷口智彦研
田中 慶子さん
Keiko Tanaka
SDM10期/神武直彦研 池田 美樹
featureer
SDM10期/神武直彦研
池田 美樹
Miki Ikeda
音声SNS「Clubhouse」で「慶應義塾大学大学院で学ぶシステムデザイン・マネジメントって仕事や人生にどう役立つの?」として2021年の1月から毎週日曜日21時から1時間、さまざまなOB/OGを迎えるトーク番組でホスト役を担うSDM11期の田中慶子さん(番組は2022年2月の第50回からTwitterスペースに場所を変更)。50名のOB/OGと横断的に話す中で見えてきたものについて、SDM10期の池田美樹が伺いました。
音声番組で修了生50名にインタビュー
池田:
まずは自己紹介をお願いします。
田中:
田中慶子です。慶應SDMは11期生として修了しました。仕事は英語の同時通訳の仕事を20年以上おこなっております。私が英語を学んだ経緯や同時通訳のノウハウを英語が苦手な人に役立てて欲しいと思って、それを伝える術を学ぶために入学しました。また、コーチングの仕事もやっていまして、英語を学びたい人には英語コーチングもおこなっております。
池田:
田中さんはどういう研究をされていたんですか?
田中:
「英語の自律的学習」です。英語を学ぶときに自分で何が必要かを考えて目標設定し、プランニングをして実行するということをどうおこなうのかという研究をしていました。
池田:
まさにお仕事と研究が結びついていたわけですね。田中さんは修了後、この1年あまり(2022年2月現在)音声SNSのClubhouseでSDMの修了生の方たちを招いた番組を日曜日の大河ドラマのあとに1時間、ずっとお続けになってらっしゃいますね。
田中:
はい、そうなんです。先日50回を迎え、Twitterスペースに場所を変更しました。
池田:
私も番組が始まった初期に出演させていただいたことがあるのですが、番組の内容と、なぜ始めたのかということを教えていただけますか?
田中:
2021年の初め頃にClubhouseが大ブームになって、私もおもしろいからClubhouseでしゃべったりとかしていたんです。そうしたら、聞いてくれた同じ11期修了の大野嘉子さんが「Clubhouseを使ってSDMのことを世の中に広めたい」と言ってくれたんですよ。「慶應SDMってすごくいいことを学べる場所なのに、世の中であまり知られていないのはすごく残念だから、Clubhouseを使って何かできないかな」という提案でした。

実は私はSDMを修了して「何を勉強したんですか?」と聞かれても全然うまく答えられなかったんですよね。SDMでの学びってすごく説明がしにくいので、「それなら修了生の皆さんはどんなことを学んだのか、毎週1人ずつ聞いていきましょう」と決めました。

続けていくうち、SDMの学びを言語化するのが難しいというのは修了生全員が感じていることだと気がつきました。そこで自分の学びを言語化してもらうようにしました。「一度言語化すると整理できた」と皆さんおっしゃるんです。ホームグラウンドに戻って1人1人が広告塔となってSDMのことを話してくれればいいなと思い、今も続けています。
池田:
言語化すると自分でも納得がいく、腹落ちするというところがありますよね。
「全体の中の自分」を見ることができるようになった
池田:
毎回どんな方にゲストに来ていただいているのですか。
田中:
企画発起人の大野嘉子さんがブッキングマネージャーとなって、彼女のネットワークでいろんな修了生を連れて来てくれるんですよ。
池田:
プロデューサーが活躍しているんですね。
田中:
本当に、彼女がいなかったらできないですね。ほとんどが私は「初めまして」という方ばかりですね。
池田:
50人の慶應SDM修了生の話を聞いてきた田中さんがあえて言語化してみるとしたら、SDMって何が学べる場所なんでしょうか。
田中:
ゲストの修了生に「SDMで学んだことはなんですか?」と必ず聞いています。そうすると、皆さん職種も違うし、それぞれのキャリアもバックグランドも違うのに共通点があるんですよ。まず、俯瞰力。「物事を俯瞰してみる力」がキーワードとして出てきます。あともう1つおもしろいなと思ったのが、言語。「言語を手に入れた」という言葉で説明する人がけっこういるんです。

例えば「今まで自分が直感的に、あるいは経験的にやってきたことを相手に説明することができるようになった」と。ほとんどの方から出てくるキーワードがこの2つです。これはいろんな表現ができますね。「構造化する」もそうだと思うし、「多視点」とかも……。自分がいる場所からだけではなく、全体の中の自分を見ることができるようになったと皆さんおっしゃいますね。
アプリを入れるのではなくOSが書き換わる
池田:
そういった学びをうまく活用しているなという例があれば教えてください。
田中:
全員に共通していることを言うと、話がうまいですね。私は通訳の仕事をしているので人の話を聞くのが仕事なんですけれど、日本人って「あれ、これ」と言えば相手がそれを察してくれるものだという話し方をする人がかなり多いんですね。でも「あれ、これ」と言っても「あ、相手はわかってないな」ということは、俯瞰力によって気付くんだと思うんですよ。SDMで得られるスキルとしてはけっこう大きいと思っています。
池田:
SDMでものごとを俯瞰的に見る力を手に入れたことで、相手にも伝わりやすく表現できるようになったということでしょうか。
田中:
そうだと思います。システムエンジニアリングの考え方で、共有することはすごく大事だというのを学んだじゃないですか。直接学ぶことではないけれど、相手に伝わる話しかたがみんな知らないうちに身についているんですよね。SDMでの学びって、知らない間に自分の中に刷り込まれているようなところがあると思います。

俗に「OSが書き換わる」という言い方をしますけど、まさに「このアプリを入れました」というのではなく、「OSそのものが変わっているんだ」ということを、OB、OGのみなさんと話していてすごく実感しました。
池田:
それはすごく面白い発見ですね。
田中:
本当に面白いです。SDMでの学びは全然完成するものではないので、あの2年間は学びの入り口に行ったんだなと思っています。
池田:
もうひとつおもしろい気づきがあったそうですね。
田中:
修了生と話していてもう1つ出てくるのが、「仲間ができた」って言うんですよ。これは言葉にするとすごくチープに聞こえてしまうんですが。SDMって変な人が大勢来ているじゃないですか。
池田:
同感です。
田中:
ね? 番組で、入学した動機をすべての人に聞いたんですよ。そうしたら、大多数の人は「よくわからないから入学した」って。これ、おかしいでしょう。社会人も多いですし、こんなに忙しい中で時間を使って、学費だってかかるのに「よくわからないから入学する?」って。でも、それは私もなんですけどね(笑)。
池田:
私もです(笑)。
田中:
そうそうそう。本当に変な人が来ている学校なんです。この「変な人」って最上級の褒め言葉ですからね。この変な人の集団にアクセスできるのがものすごい財産なんだと思うんです。「リソースを手に入れた」と言えると思います。あともうひとつは、SDMだけじゃないと思うんですけど、アカデミックの世界ってすごく助け合いますよね。研究のためならサポートをするよっていう空気がありますよね。
抽象度を上げて自分のことを考えてみる
池田:
今回、この記事は「これからSDMに入りたいな」と思っている方とか、「これから神武研と一緒に研究をしたいな」と思っていらっしゃる方、また、それこそ小学校に通っているお子さんをお持ちのお母さんとかお父さんにも読んでいただきたいと思っているんですけれど、そういった方々にも、ほかに何か伝えることはないだろうかと思っているのですが。
田中:
SDMで学ぶ考え方は何にでも使えるということを、私はこの1年で本当に感じていますね。経営者の方、起業家の方、老舗の会社を経営している方、あと面白かったのが、霞が関で仕事をしている官僚の人も、「システムエンジニアリングのアプローチやSDMの考え方を現場で使いたい」とおっしゃっています。

また、SDMに行くと人生変わっちゃう人も多いですよね。仕事を辞めちゃったり、自分のやりたいことに目覚めてしまったり。これまでお話ししてきた方の中には同じ会社にとどまっている人ももちろんいらっしゃいますが、彼らはこれまでとはまったく違うかたちで仕事をしていると言いますね。外からは同じことをやっているように見えるけれど、OSが書き換わっているから、実は水面下では全然違う考え方をしているのだと。
池田:
確かに、同じ学びでもその人の立場によって活かし方は違ってきますよね。
田中:
本当にこの学びはアプリじゃなくてOSなんだなと思います。
池田:
最後に、田中さんの同時通訳やコーチングといった本業にSDMの学びはどう活きているのか、あるいは活かしていきたいかを聞かせてください。
田中:
私は同時通訳のほうがキャリアとしては長く、途中からコーチングが加わりました。SDMに行く前はそれに対してちょっとコンプレックスがあったんです。通訳の世界はストイックな人が多く職人さんの集まりみたいな業界なので、別の仕事もやっていることに少しコンプレックスを感じていました。また、「通訳の仕事って何なんだろう?」とずっと悩んでいました。

でも、SDMに行ってまず1番最初に「通訳の仕事とは何なのか」がわかったんです。以前は通訳とは「この言葉を中立的に訳すこと」で、そこに収まりきれない自分が駄目だと思っていました。それが、SDM的に構造化してみると、日本語を聞いたらまず言葉を概念のところまで抽象度を上げて、もう1回具体的な言葉まで落として英語にするのが通訳なんだということがやっとわかったんですよ。
池田:
SDMの考え方で通訳の仕事を構造化して理解できた。
田中:
本当にそうなんですよ。それで通訳がうまくなったかどうかはわかりませんけれど、「私がやっていることは間違っていない」と思えるようになりました。また、通訳では「違う言語に訳す」ということをやっているわけですが、コーチングは悩んでいる人の話を聞いたあとに抽象度を上げて、「つまりあなたの言いたい事、考えていることはこれですね」とわかりやすく見せてあげるのが役割。「やっていることは通訳と同じなんだ」と気付いたんです。それからはコーチングと通訳の両方をやっていることをコンプレックスを持たずに堂々と言えるようになりました。
池田:
他の仕事をしている方にも今の考え方は活かせそうですね。
田中:
いったん自分のやったことの抽象度を上げて考えるとすごく可能性が広がると思います。「人生100年時代」と言われて、多分1回や2回は転職をしなくちゃいけなくなると思いますし、引退したあとにも仕事を見つけたり、お金を稼ぐわけじゃなくても何かをすることになるでしょうしね。
池田:
すぐにでも活かせそうなやり方ですよね。
田中:
SDMで得られることって、知識じゃないんですよね。だから説明しにくのですが、手を動かすことで身につけられることもたくさんありました。見えにくいけど確実に自分の実になっていると思います。これからも学び続けていかなくてはならないですね。
池田:
今日は貴重なお時間をありがとうございました。
田中:
ありがとうございました。